東京地区数学教育協議会の秋の基礎講座
今日は、これからの授業で使えそうな各学年のものを紹介いたします。これらは数教協の実践として有名な物ですが、実際に自分で授業をしていってアレンジをしたりしています。
まず始めに、アイスブレイキングです。アイスブレイクというのは文字通り「氷を溶かすこと」という意味ですが、初対面の人同士が出会うとき、その緊張を解きほぐすための手法です。自己紹介とか簡単なゲームをしたりすることが多いそうです。
今回は正六角形の板に上向きの矢印が書かれていますが、それを裏返すと矢印の向きはどうなりますか、というものです。最初は同じ位置にありましたが、次は向きが変わり、参加者から「オー」とどよめきが起こりました。回転する対称軸を操作することで矢印の向きを変えることが出来るようです。このネタは西三サークルから伺ったそうですが、西三サークルのHP( https://www.seisan-math.com/ )の中でみつけることが出来ませんでした。探し方が悪いのでしょうか。
次は、中学1年生の最初に行う内容で、私立の小学校の入試問題にあったそうです。黒板に四角を書いてそこに1が2個、2が2個、3が2個書き入れて、1と1、2と2、3と3を結んで下さいと言います。やってみると中々出来ません。参加者からは「枠の外に出てはいけないのですか」などという声が出てきましたが、「それは出来ません。線が交叉したり、数字の中に入ったりは出来ません。」と話がありました。上手く出来ないのは、最初に1と1を結んでしまうからで、2と2、3と3を始めに結ぶと、隙間が出来るので、そこを通すことで1と1を結べます。意外と勉強が出来る子が出来ないそうです。
では、本題に入ります。丁度今頃は、1年生は比例と反比例、2年生は一次関数、3年生は二乗比例に入る頃だと思うので、その教材を持ってきました。
1年生の教材として「視力検査表の謎」を持ってきました。これは教科書にも載っている話題です。この輪の名前は「ランドルト環」で、フランスの眼科医のランドルトに因んで名前が付けられました。右の寸法の環を5m離れたところから見て、隙間が判別出来れば1.0の視力があると、決められました。本来は、距離を変えてみて、どの距離からまでなら判別出来るかとして視力を見めるのですが、距離を変えないで、環の大きさを変えて視力を測っています。それで、「本日のミッション」は、「視力と外環直径・隙間の関係を探れ!」ということになります。
視力測定の表を持っていき、その表の各視力の外形寸法と隙間の距離を計測して、表を完成させて考えます。直径を測るときは中心が何処か分からないから、少し適当になってしまいます。出来たら視力表の環の中心に点を打っておけばいいかとも思います。
視力0.1では直径が75mmで隙間が15mmになり、これを見て何か分かることを書かせていますが、なかなか分からないようです。隙間と直径は比例関係になっていますが、視力と直径、視力と隙間の関係は難しいようです。視力が0.1と1.0を較べると、視力が10倍で直径や隙間は10分の1になっています。そんなことを言うと、これは反比例ではないかと気づく子が多いです。
視力をx、直径をy、隙間をzとすると、という関係式が出てきま
す。小数が出てくるので、かなり手間取ります。
次は2年生の話題で、面積トリックです。一辺が8cmの正方形を切り取って並び変えて長方形を作れ、という物です。ただ切り取って並び変えるだけですが、10分位かかります。これがメインではなくて、元々の正方形の面積は8×8で64cm2ですが、並び変えた長方形の面積は5×13で65cm2になり、面積が大きくなっています。生徒は「何でダメなの?」と発言したりします。それで、何故面積が1cm2だけ大きくなったのかを謎を解け、ということになりますが、自力解決が結構困難なようで、「ヒントカード」を3枚用意しています。最初は個人で5分くらい考え、その後グループを作って、考えて貰います。グループで話し合って、ヒントを出して貰いたいグループは、その中の1人が黒板の前に来て、黒板に貼付けたヒントカードを見て、それをグループのみんなに伝えるようにしています。ヒントは順番に、1,2,3とあります。ヒントカード1は「並び変えた長方形の何処かに隙間があるかもしれない」となっていて、自分の長方形を眺めても隙間をなかなか確認出来ません(雑にはさみで切り取った)。ヒントカードの2は「AとCの斜面はどちらが急か、それを調べる方法は?」で、これも切り取った斜面をい重ねていて、ハ
ッキリしません。ヒントカード3は「斜面の傾きを調べるといい」で、傾きを計算すると、
とホンの僅かな違いがあります。それで、僅かな隙間が出来て、面積が大きくなります。こういう図形は他にも出来て、フィボナッチ数になっているそうです。
グループによっては、ヒントカードを見に来ようとしないグループもあったり、最後までたどり着くのがクラスで1グループくらいです。
図形の問題と思わせておいて、実は一次関数の傾きの問題なのです。
次は3年生の話題で、「ガリレオの振り子の実験」です。この前研究授業で行いました。ガリレオガリレイは1564年生まれで、イタリア人で、月のクレータを発見し、木星の衛星を3個発見し、落体の法則を発見し、地動説を唱えて、それで捉えられてしまった人で、振り子の等時性も発見しました。その振り子の実験を行います。
振り子を持っているのは大変だから、ホームセンターなどで棚を作る際のL時の金具を買ってきて、そこにマグネットを付けて、黒板に貼れるようにして、その金具には溝があったので、そこに紐を通して片側には振り子の錘を付けて、片側にはマグレットを付けて振り子の長さを変えることが出来るようにしました。
振り子が行って返ってくる1往復するのにかかる時間を「周期」と言います。【問1】で振り子の振れ幅に周期は関係がないこと、【問2】で振り子の錘の重さに周期は関係ないこと、【問3】で振り子の長さには周期が関わることを、質問して予想を聴いて実験しながら確認していきました。周期は10往復する時間を最初はストップウォッチを使って測っていましたが、0.01秒まで測れてしまうので、1秒おきのタイマーで秒単位で測るようにしました。
それで、振り子の長さと周期との関係を調べようと、始めに25cmの時の周期は1秒であることを行ってから、【問4】で50cmの時の周期、【問5】で75cmの時の周期、【問6】で100cmのときの周期を、予想をしてから実験をしていき、【問7】で実験結果を表にまとめて、関係を考えます。この際は、長さをmで表しました。
25cmで1秒で、50cmで1.4秒と1.4倍になり、100cmで2秒と2倍になります。そんなことをしていると、1.4とか1.7という数値は何処かで見たことがあるぞ、と平方根に気づく生徒が出てきます。
教科書では二乗比例の例として出てくるので、周期をxで長さをyとしていますが、何故周期がx何だという
疑問が出てくるので、私は、長さをxで周期をyとして、という式が出てきます。いわゆる
無理関数ですが、このxとyを入れ替えて、という式が出てきます。
最後に、アルプスの少女ハイジのブランコに載ってい動画を見せて、ブランコの周期を測ってブランコの長さを計算することをします。計算すると16mくらいだということが分かります。
おまけとして、生徒が作ったレポートを幾つか持ってきました。今年はオリンピックがありましたが、4年に1回で「オリンピック・パラリンピックと数学」というレポートを作らせています。ともかく、オリパラで数学と関わる物を捜しなさいというと、歴代の記録とかいろいろみつけてきます。レポートを作る前に、今までの先輩達の作品を見せるようにしています。それを見せると、先輩を超えようと生徒の取り組み方は全然違ってきます。生徒の感想を見ると、オリンピックの見方が変わったと書かれていました。
3年生には「平方根を捜せ」というレポートを書かせています。京都とか奈良に黄金比とか白銀比があふれているという話は授業でします。修学旅行の前なので、あまりパッとしないようです。それで、周学旅行に行ったときにいろいろ捜してきます。
提出されたレポートは、「ください」というと快くいただけます。れをストックしていきます。
最近は評価についてよく聴かれるのですが、第三観点の「主体的に学ぶ態度」とかで使っています。
1年生には「出題者になろう」といって、正負の数が終わった後に自分で問題を作って、解説までするというもので、時間があったら、生徒が教師になってみんなでやるようにしています。(-1)2000ー(-1)1995とか、4の265乗の一桁とか、すごくマニアックな問題を作ってきます。また「マイナスとマイナスをかけて、何故プラスになるのか」というのを家の人に説明するということもしています。自分で説明を書いても、説明が出来ないといけないと分かったことにならないということで、家族に説明をして感想を書いて貰います。すると、親が燃えてきて、子どもが何を言っているのか分からなくてメチャメチャ議論をしましたとか、何十位年ぶりに数学をやりましたとか、子どもが何を言っているのか分からないので私が説明しましたとかがありました。もちろん、兄弟にも説明をして、小学生に分かって貰えませんでしたとかもありました。授業ではトランプを使って説明をしていますが、気球を使ったり、タイムマシーンを使ったり、数直線で行ったりもありました。
座標を学習した後に、座標でお絵かきをしますが、勝手に座標の上に絵を描いて、適当に点をプロットして座標を求めていきます。複雑な絵にすると沢山点をプロットしなければいけないから大変だよと言っても、スゴイ絵を描いてきます。
図形の移動で、「平行移動・対称移動・回転移動して出来ているマークを捜せ」ということもしています。ロゴなどを自分で書いてもいいし、写真を撮ってきてもいいとしています。
「オリジナル方程式を作る」というのは、解を与えて、その解になる方程式を作るのですが、レベル1,2,3と3通り作って貰います。問題練習を生徒は大嫌いなので、盛り上がらないのですが、逆にしたことをやってみました。等式の性質を理解していればいくらでも方程式は作れます。
他の生徒の作品を貼っておくと、メラメラ燃えてくるようです。ホワイトボードに作品を貼っておくだけでもいいのです。
最後にレジメに戻ります(レジメは当日配布されていて、月例研レポート集24-10にはありません)ここでの話の内容は以下の通りです。
いつも点っていること。最近改めて思うこと。 (ちょっとマジメに・・・)
①授業は、毎回がライブ(同じ授業は二度とできない。だから面白い。)
②その昔、 「教師は、プロデューサーであり、ディレクターであり、アクターである」と言われたが。
今は「フアシリテーター」と言うらしい。 (これがまたむずかしい)
③学校でしか学べないものは何か。ひとりではできないものは何か。
(勉強はひとりでもできる。でも、学校だからこそ学べるものがある。)
④自分は「何を」伝えたいのか。 「知識」なのか「知恵」なのか。
⑤ 「数学を学ぶ」から「数学で学ぶ」へ
・数学を教えるにあたり大事にしていること
「生活に直接関わる数学の重要さ」 「数学自体がもつおもしろさと奥の深さ」
・複雑に絡み合った世の中を、生き抜いていくための数学
投稿: 草彅 浩二