心理尺度の適切な利用を考える──「心は測れるのか」事前レポート

 楽しくて、豊かな生活のためになる心理学を考え、実践していく。
 その一環として、ほんのちょっとかもしれないけど、とっても大事な変化のきっかけになるようなイベントを企画する。
 次回イベントは2023年6月3日(土)14時から「心は測れるのか──心理尺度の適切な利用を考える」と題して開催します。
 本noteでは、荒川出版会メンバーがイベントの事前レポートを公開します。レポーターは、今回イベントの登壇者であり、荒川出版会の会長でもある仲嶺真です。

「心は測れるのか」というテーマは、とても大きなテーマです。たとえば、カントは「心理学は科学になれない。なぜなら、”心”に数学を適用できないからだ。」と言いました。そして、心理学の科学化(数学を適用することはその一つ)は、これを乗り越える形で行われてきており、「心を測る」というのは、ある意味で、心理学の根底にある問題意識だったわけです。

出典:サトウタツヤ「心理学は科学になれない イマヌエル・カントが言ったことについてのメモ」https://psych.or.jp/interest/mm-09/

それでもこのテーマでイベントをしようと思えたのは、デニー・ボースブームが『心を測る──現代の心理測定における諸問題』でこの問題に格闘しており、そこから心理測定について一つの見晴らしをもらったからです。その見晴らしとは何か。簡潔に言えば、心理測定の考え方によって心の考え方が異なる、というものです。

ボースブームによれば、心理学には3つの重要な測定スタイル(心理測定の考え方)があります。古典的テスト理論、潜在変数理論、表現的測定理論です。心理学でよく使われるのは、古典的テスト理論、潜在変数理論ですが、前者は測定値=心と考え(たとえば、知能テストで測られたものが知能だ、という考え)、後者は測定値は心が反映されたものと考えます(たとえば、知能は知能テストに反映される、という考え)。すなわち、古典的テスト理論は心を操作主義的に捉えており、潜在変数理論は実在論(理論実在論)的に心を捉えています。

でも、心を操作主義的に捉えると、測定する道具ごとに心ができてしまうし(たとえば、知能検査Aと知能検査Bで測定される知能は、知能Aと知能Bであり、同じ知能ではない、とされます)、心を実在論的に捉えると、「心が実在する」とはどういうことかを考えねばなりません。

また、ボースブームは、「因果」という重要な視点も提供しています。心を実在論的に捉える潜在変数理論では、「心が行動(項目反応)に影響する」と考えないと整合性が取れません。そのため、「心(原因)が行動(結果)に反映される」という「因果」を考えることはボースブームにとって避けて通れない問題だったのでしょう。

狭義の心理尺度は、基本的に潜在変数理論に基づいていることから、この「心が実在する」という問題と「因果」という問題が、本イベントの主題になると思います。

ボースブームも区別すべきだと主張している「個人間因果と個人内因果」や「局所均質的構成概念・局所異質的構成概念・局所無関係構成概念」といった論点について考えたり、「心的概念の性質」について考えることにもなるかもしれません。

「心は測れるのか」は大きなテーマであるからこそ、議論したいことはたくさんあり、話はいろいろな方向に展開するだろうと思います(当然、脱線もあると思います)。それもまた本イベントの醍醐味の一つです。

いろいろな観点から議論しつつも、現在、心理学だけでなく、広くさまざまな場面で利用されることの多い心理尺度について、何かしらの「適切な利用法」の示唆が得られればいいな、というのが一登壇者の願いです。

ぜひみなさまとともに考えられることを楽しみにしています。

P.S. イベント時に議論しきれなかった場合は、ぜひイベント後に話しましょう。会場でお待ちしています!

投稿: 仲嶺 真