【褒める5】褒めることを諦めない

「褒めることは大事だってわかってるんです!でも、とても褒める状況じゃないんです!」
「授業が始まっても、ノートも教科書も出さずにいるんですよ。何を褒めればいいんですか?」

このように質問されたことがあります。
すごくわかります。
私も20代の頃、同じよう思っていました。

褒めたいけれど、
褒めることが見つからないのです。
そんな当時、こんなことがありました。

一時間目は国語でした。
教科書の詩のページでした。
他の子が私の指示で教科書を開いても、
A君は全く何もしません。
教科書を出さずにぼーっと座っています。
彼は勉強が苦手でした。
注意されなければ、自分から勉強しませんでした。
いつも授業前は、何も用意せず、ぼーっと座っているのです。
「A君、みんな出したよ。早く出して開きなさい」
当時の私は、いつもこのようにA君に注意していました。
こう言えば、A君はとりあえず教科書を出し、開きます。
でも、この日、私は、なぜかそれをしたくありませんでした。

「注意しないでA君に教科書を開かせたい。」

そう思った私は、視線の端にA君の姿を捉えながら
学級全体に対して授業を開始してしまいました。

「先生の後について、読んでごらん」
そういって、私が読んだ行を、全体に読ませていきました。
読みながら、
「Bさん、いい姿勢だな!」
「C君、いい声で読んでる!」
「Dさん、口が大きく開いているね!」
と頑張っている子を褒め続けました。
そうやって勤めて、明るく授業を続けました。

5分ほどたった頃です。
ふと、見るとA君がモゾモゾ動いています。
なんと教科書を出しています。

私は彼が自分から教科書を出しているところを初めて見ました。
私はA君を褒めました。
「A君えらい!教科書を出したね」
彼を褒めてから、また授業を続けました。
もしかしたら、自分で教科書を開くかもしれない。
そう思いながら、授業を楽しく進めました。

すると彼は教科書を開いたのです。
「えらいなあ!ちゃんと開いたね」

この日以来、A君は少しずつ、自分で教科書を出し開くことができるようになりました。
A君を褒めることを諦めていたら、
A君の行動を「注意」だけで変えようとしていたら、
A君の成長を見ることはできませんでした。

褒めることを諦めちゃいけない。
褒めることを諦めることは、
その子の可能性を諦めることになる。

もっと早く、私がA君への対応を変えていればよかったと
今の私は反省しながら、A君のことを思い出します。

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投稿: 塩谷 直大